奈良国立博物館 糸のみほとけ 国宝 綴織當麻曼荼羅修復完成記念特別展

芸術


“糸のみほとけ”とは、
刺繍や綴織による“糸”の仏像のことです。

糸のみほとけの代表的な作例の一つ、
国宝『綴織當麻曼荼羅』の修復を記念し、
糸の仏の像を、一堂に集める展覧会が開催されます。

今回、奈良国立博物館では、
『天寿国繍帳』や『刺繍釈迦如来説法図』も公開されます。

国宝3点が集まり、
絵画や木とは異なる糸の仏の魅力を堪能することができます。

奈良国立博物館 糸のみほとけ展の開催日程の詳細や、
糸のみほとけ展 公開講座についてご案内します。

糸のみほとけ展の開催を記念して募集された、
オリジナルの手作り作品の展示があります。

さらに、綴れ織りの実演と解説や
「天寿国繡帳の繡い方を体験しよう!」という大人向けワークショップ、
「織ってみよう!糸のみほとけ」という
親子向けワークショップも、開催されます。

夏休みの自由研究にいかがですか?

  

奈良国立博物館 糸のみほとけ特別展日程


日本では刺繡や綴織など、
「糸」で表現された仏の像が数多く作られました。

とりわけ古代では、
大寺院の一堂の本尊とされる花形的存在でした。

奈良・當麻寺蔵の国宝 綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)や、
奈良国立博物館蔵の、
国宝 刺繡釈迦如来説法図(ししゅうしゃかにょらいせっぽうず)は、
その隆盛のさまを伝える至宝です。

また、糸を縫い、織る行為は故人の追善につながり、
聖徳太子が往生した世界を刺繡で表した、
奈良・中宮寺蔵の国宝 天寿国繡帳(てんじゅこくしゅうちょう)が、
生み出されました。

鎌倉時代以降、刺繡の仏は再び隆盛を迎えますが、
その背景には綴織當麻曼荼羅を織ったとされる、
中将姫(ちゅうじょうひめ)に対する信仰がありました。

極楽往生を願う人々は中将姫に自身を重ね、
刺繡によって阿弥陀三尊来迎図(あみださんぞんらいごうず)や、
種子阿弥陀三尊図(しゅじあみださんぞんず)を作成しました。

この展覧会は綴織當麻曼荼羅の修理完成を記念し、
綴織と刺繡による仏の像を一堂に集める特別展です。

天寿国繡帳、綴織當麻曼荼羅、刺繡釈迦如来説法図の国宝3点が、
一堂に会する空前の企画です。

糸のみほとけ展を通して絵画とも違う、
「糸」の仏の世界の魅力をご鑑賞してみませんか。

糸のみほとけ展の日程

★会 期 平成30年7月14日(土)~8月26日(日)

★会 場 奈良国立博物館 東新館・西新館

★休館日 毎週月曜日 ただし7月16日・8月13日は開館

★開館時間 午前9時30分~午後6時

毎週金・土曜日と8月5日(日)~15日(水)は午後7時まで
入館は閉館の30分前まで

★観覧料金
     一般  高校・大学生  小・中学生
当日     1,500円    1,000円   500円
前売・団体    1,300円    800円   300円

7月28日(土)と29日(日)は子ども無料日です。
小・中学生無料、同伴の保護者は団体料金で観覧できます。

前売 2,500円
前売券の販売は、5月14日(月)から7月13日(金)までです。

観覧券は、当館観覧券売場のほか、
近鉄の主要駅、近畿日本ツーリスト、JR東海ツアーズ、PassMe!、
dトラベル、日本旅行、ローソンチケット(Lコード54243)、
セブン-イレブン、チケットぴあ(Pコード763-289)、
イープラスなど主要プレイガイド、コンビニエンスストアで販売いたします。
(チケットの購入時に手数料がかかる場合もあります)

★出陳品

138件(うち国宝9件、重要文化財34件)

糸のみほとけ展 公開講座

◆ 7月21日(土)
「国宝綴織當麻曼荼羅 ―― その図様と意義」
大西磨希子氏 (佛教大学教授)

◆ 8月4日(土)
「繡仏の世界 ―― 刺繡釈迦如来説法図(奈良国立博物館蔵)を中心に」
内藤栄 (当館学芸部長)

◆ 8月11日(土)
「飛鳥から奈良時代における刺繡と金糸の技法の変遷」
沢田むつ代氏 (東京国立博物館客員研究員)

糸のみほとけ展 オリジナル手芸作品 展示コーナー

当展覧会の開催を記念して、
皆様から募集した作品を当館地下回廊に展示いたします。

◆募集期間:6月11日(月)~7月6日(金)

◆展示場所:当館地下回廊

糸のみほとけ展 綴織実演と解説

綴織の作品がどのようにして織られたか、
実演しながら分かりやすく解説いたします。

◆日時:7月22日(日)10時00分~16時00分
(10時・13時・15時から解説あり)途中休憩あり。

◆場所:特別展「糸のみほとけ」展示室

◆実演・解説:川島織物セルコン

親子向けワークショップ「織ってみよう!糸のみほとけ」

キットを使って簡単な手織りを体験しながら、
展示されている綴織などについて学ぶ親子向けワークショップです。

◆日時:7月29日(日)
①10時00分~12時00分 ②13時30分~15時30分

◆会場:当館地下回廊

◆講師:奈良教育大学 大学院生

◆対象:小中学生(保護者同伴)

◆定員:各回18組

◆参加費:無料
(但し保護者の方については、本展の観覧券もしくはその半券、
奈良博プレミアムカード等のご提示が必要です)

大人向けワークショップ「天寿国繡帳の繡い方を体験しよう!」

刺繡工芸家・樹田紅陽氏の指導のもと、
本格的な日本刺繡を体験していただく大人向けのワークショップです。

◆日時:8月5日(日)13時00分~16時00分

◆会場:当館会議室

◆講師:樹田紅陽氏(刺繡工芸家)

◆対象:15歳以上

◆定員:14名(申込多数の場合は抽選)

◆参加費:1,000円(観覧料金は含まれません)

奈良国立博物館 糸のみほとけ特別展 国宝と主な出陳品

国宝 天寿国繡帳[てんじゅこくしゅうちょう] 

 

奈良・中宮寺
紫羅地・紫平絹地 部分刺繡 縦88.8cm 横82.7cm
飛鳥時代(7世紀)、鎌倉時代 建治元年(1276)

推古天皇30年(622)
聖徳太子が亡くなり、
お妃の一人である橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)が、
太子の往生した世界を繡帳にすることを推古天皇に願い出た。

天皇が采女(うねめ)たちに刺繡させたのが天寿国繡帳です。

鎌倉時代に模本が作成されたが、
江戸時代には新旧の繡帳は断片化しており、
現在のように新旧の断片を貼り交ぜた状態で一幅の掛物(かけもの)とした。
 

現在の天寿国繡帳において、
刺繡糸の美しい残欠と茶色に退色した刺繡片を見ることができるが、
前者が飛鳥時代、後者が鎌倉時代の刺繡片である。

飛鳥時代の残欠は、
紫平絹(へいけん)に紫羅を重ねたものを地裂(じぎれ)として、
撚(よ)りの強い糸を返(かえ)し繡(ぬい)だけを用いて刺繡されているが、
鎌倉時代のものは紫綾の地裂に撚りのない糸で、
主に刺(さ)し繡(ぬい)で表現されている。

文字を背に表した亀が見えるが、
これはもともと百体あり、あわせて四百文字の銘文が刺繡されていた。

天寿国がどの仏の浄土に当たるのかは諸説があり、いまだ定説はない。

国宝 綴織當麻曼荼羅[つづれおりたいままんだら] 

奈良・當麻寺
綴織 縦396.0cm 横396.6cm
奈良時代または中国・唐(8世紀)

奈良時代に高貴な女性(中将姫(ちゅうじょうひめ))の祈りによって、
蓮糸を使い一晩で織り上げたと伝えられ、
わが国の浄土信仰の核となった曼荼羅である。

図様は極楽浄土の様子を中心に、
『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』を絵解(えと)きする内容で、
多数の色糸(いろいと)を用いた緻密な織りによって、
約4m四方の大画面が表されている。
平成26~29年度に行われた本格修理後初の公開となる。

国宝 刺繡釈迦如来説法図[ししゅうしゃかにょらいせっぽうず]

奈良国立博物館
白平絹地 総刺繡 縦211.0cm 横160.4cm
奈良時代または中国・唐(8世紀)

中央に赤い袈裟(けさ)をまとい、座に腰かける釈迦如来を表す。
釈迦の後ろには後屛(こうびょう)があり、
頭上には天蓋(てんがい)と樹木がある。

釈迦の左右に14人の菩薩が立ち、
10人の僧侶と供養者たちが囲繞(いにょう)する。

その中に釈迦の正面に立つ1人の女性が見える。

釈迦の上方左右には12人のさまざまな楽器を奏でる飛天がいる。

主題は諸説あるが、
釈迦に対面する女性を釈迦の生母である摩耶夫人(まやぶにん)に充て、
夫人が往生した忉利天(とうりてん)において、
釈迦が説法する場面とする説などがある。

刺繡の技法は鎖繡(くさりぬい)を主に、
釈迦の螺髪(らほつ)や菩薩の宝冠などに、
糸に団子結び目を作る相良繡(さがらぬい)が用いられている。
 
平成24年から27年度にかけ修理が行われた。

これによって、これまで表具で隠れていた縁の部分が現われ、
ここに刺繡釈迦如来説法図の随所に貼られている、
葡萄唐草文(ぶどうからくさもん)がめぐっていたことが判明し、
また過去の修理で間違って貼られていた刺繡片の、
位置が訂正されるなどの成果があった。

糸のみほとけ特別展 主な出陳品

◆重要文化財 幡足裂[ばんそくぎれ] 8面 

東京国立博物館(法隆寺伝来品)
縬地 部分刺繡
飛鳥時代(7世紀)

◆綴織當麻曼荼羅 部分復元模造
[つづれおりたいままんだら ぶぶんふくげんもぞう]  
1面

京都・川島織物セルコン
綴織 縦19.0cm 横23.0cm
現代 平成30年(2018)

◆刺繡霊鷲山釈迦如来説法図
[ししゅうりょうじゅせんしゃかにょらいせっぽうず]  
1面
 
英国・大英博物館
白平絹地・麻地 部分刺繡 縦241.0cm 横159.5cm
中国・唐(8世紀)

◆重要文化財 刺繡阿弥陀三尊像[ししゅうあみださんぞんぞう] 1幅
 
石川・西念寺
平絹地 部分刺繡 縦144.1cm 横83.2cm
平安時代~鎌倉時代(12~13世紀)

◆重要文化財 刺繡大日如来像[ししゅうだいにちにょらいぞう] 1幅
 
京都・細見美術館
平絹地 総刺繡 縦70.2cm 横29.2cm
鎌倉時代(13~14世紀)

◆刺繡釈迦三尊像[ししゅうしゃかさんぞんぞう]  1幅
 
山梨・久遠寺
平絹地 総刺繡 縦79.5cm 横40.7cm
鎌倉~南北朝時代(14世紀)

◆重要文化財 刺繡九条袈裟貼屛風[ししゅうくじょうけさばりびょうぶ]1隻
 
京都・知恩院
羅地・綾地 平絹地 部分刺繡 縦116.9cm 横305.1cm
中国・宋~元(13世紀)

◆中将姫坐像[ちゅうじょうひめざぞう]  1軀
 
奈良・當麻寺
木造 彩色 像高73.3cm
室町時代 永禄元年(1558)

◆重要文化財 刺繡阿弥陀三尊来迎図[ししゅうあみださんぞんらいごうず]
1幅  後期展示(8/7~8/26) 

愛知・徳川美術館
平絹地 総刺繡 縦112.8cm 横39.5cm
鎌倉時代(13~14世紀)

◆重要文化財 刺繡釈迦阿弥陀二尊像[ししゅうしゃかあみだにそんぞう] 
1幅  前期展示(7/14~8/5)

大阪・藤田美術館
平絹地 総刺繡 縦132.0cm 横48.5cm
鎌倉時代(13~14世紀)

◆刺繡當麻曼荼羅[ししゅうたいままんだら] 1幅

京都・真正極楽寺
平絹地 部分刺繡 彩絵
刺繡部分:縦375.0cm 横344.0cm 彩絵宝相華文部分:縦412.0cm 横399.0cm
江戸時代 明和4年(1767)

◆重要文化財 刺繡阿弥陀名号[ししゅうあみだみょうごう]1幅

福島・阿弥陀寺
平絹地 総刺繡 縦61.2cm 横18.2cm 軸幅20.8cm
鎌倉~南北朝時代(13~14世紀)

国宝 綴織當麻曼荼羅修復完成記念特別展の當麻寺奥院とは

當麻寺奥院は、當麻寺最大の塔頭で、
浄土宗総本山知恩院(京都市東山区)の「奥之院」
法然上人第九番霊場 西山国師十四番霊場として、
応安3年(西暦1370年)に建立されました。

當麻寺奥院は奥の院と云っても當麻寺の奥の院ではありません。

京都の知恩院の奥の院です。

従ってここは真言宗ではなく浄土宗寺院、
それも大和における本山なのです。

當麻寺奥院には浄土庭園と云うまさに夢の中で見るような、
素晴らしい庭園があります。

当然、山内へは別途料金が必要です。

當麻寺奥院には、
當麻曼荼羅と同手法で作られた「綴織當麻曼荼羅」があります。

當麻寺奥院は、當麻寺の一部には違いないのですが、
宗派も別にする独自の寺院です。

當麻寺は少し変わっていて、
「奥院」「護念院」「西南院」「中之坊」の4カ寺が、
年番で「當麻寺」の住職を兼務しています。

本堂・金堂・講堂の管理等。

奥院と護念院は浄土宗、西南院と中之坊は真言宗、
4カ寺とは云うものの、
必ず浄土宗と真言宗が代わり番に住職を務めるので、
一年ごとに宗派が変わる珍しいお寺です。

奥院を開山した誓阿普観上人は、
知恩院の12代目の住職でもあります。

当時、
京都は南北朝分裂後の混乱で常に戦火の危険性に満ちていました。

法然上人の夢告を得た誓阿普観上人は後光厳天皇の勅許を得て、
知恩院本尊として安置されていた法然上人像(重文)を、
撰択本願念仏集(重文)や法然上人所縁の宝物とともに、
當麻寺へと遷座し往生院(今の奥院)を建立したのです。

以来、
知恩院の住職が極楽往生を遂げる地として住職5代に亘り當麻寺奥院へ隠遁し、
法然上人像を守りました。

知恩院と対をなす奥院は、
浄土宗の大和本山として念仏流通と僧侶育成の道場となり、
また當麻曼陀羅を日本全国に広める役割も果たし、
多くの人々の信仰を集め、今日まで護持継承されて来た名刹です。

法然上人二十五霊場の九番札所であり、
広大な「浄土庭園」に、
約80種類3,000株というボタンが咲くことでも知られています。

當麻寺奥院

奈良県葛城市當麻1263
0745-48-2008(代)

あとがき

奈良国立博物館で開催される『糸のみほとけ展』

仏像と言えば、木で彫られたり、
鋳造された立体物のことだとばかり思っていました。

遥か昔に『糸』を使って織られた布、
そこに表現されていた浄土の世界は、
時間を超えて、
私たちに何かを伝えようとしているようです。

糸で表現することを考えだした古の人々の技術力も凄いのですが、
時間の経過とともに、
朽ち、色褪せようとしているものを、
甦らせることができる今の人間の技術も凄いですね。