富岡製糸場は、
明治政府が近代化政策を実践すべく設置した製糸場です。
西洋の技術と日本の工法を融合した建造物が並ぶ
『富岡製糸場と絹産業遺産群』は、
平成26(2014)年に世界文化遺産に登録されました。
富岡製糸場が世界遺産に登録された理由は?
幕末から明治期にかけての日本を躍進させたのは、
重工業だけではありませんでした。
絹産業の技術革新で日本と世界の交流に貢献したのが繊維産業で、
その旗振り役が、
維新からわずか5年後の1872年に操業を開始した
『官営富岡製糸場』です。
群馬県内の3件の関連資産を含む
『富岡製糸場と絹産業遺産群』は、
2014年に世界文化遺産に登録されました。
富岡製糸場は、
1872年にフランスの技術を導入して設立された官営模範工場であり、
器械製糸工場としては、
当時世界最大級の規模を持っていました。
1893年に三井家に払い下げられた後、
原合名会社、片倉製糸紡績会社と経営母体は変わりましたが、
第二次世界大戦でも被害を受けず、
繰糸所を始めとする開業当初の木骨レンガ造の建造物群が、
良好な状態で現代まで残っています。
それに加え富岡製糸場の価値は、生糸の大量生産の実現、
さらには上質な生糸が輸出された結果、
各国との交流が生まれ、
高級な絹を大衆にまで広めたことにあります。
2006年に建築物7棟、貯水槽1基、排水溝1所の主要建造物が、
重要文化財の指定を受け、
その建物の保存の良さも相まって登録に至ったといわれています。
ユネスコが登録する世界遺産は、
その特質に応じて
「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」に分類されていて、
その中の世界文化遺産に登録されています。
富岡製糸場と渋沢栄一の関係は?
富岡製糸場誕生に大きくかかわったのが、
当時の大蔵少輔・伊藤博文と大隈重信。
そして、2021年の大河ドラマの主人公・渋沢栄一です。
彼らは官営の器械製糸場建設のため、
フランス公使館通訳アルベール・シャルル・デュ・ブスケらの紹介で、
お雇い外国人として生糸検査人ポール・ブリューナを雇用
後に富岡製糸場の初代工場長となる尾高惇忠らとともに、
今の群馬県富岡を建設地とすることを最終決定しています。
尾高惇忠は江戸後期に豪農の家に生まれた幕末の志士で、
渋沢栄一のいとこで義兄でもありました。
渋沢栄一は実家が養蚕業を営んでいたのに加え、
伊藤同様に海外視察で知見を広め、
富岡製糸場設置主任として尽力しました。
当初はフランスが製糸場設立の許可を求めていましたが、
その熱心さゆえに伊藤は利益になると読んだようです。
複数の候補から富岡が選ばれたのは、
もともと養蚕が盛んだったうえに、
広い敷地と大量の水が確保できるなどの条件が揃っていたからです。
操業開始時には、生糸の検査技師ポール・ブリューナや、
工女に器械繰糸の技術を教える教師がフランスから招かれました。
作業を担うのは、日本全国から集められた女性たちで、
会得した技術を故郷に広める役割を背負っていて、
繊維業発展を担っていました。
合宿所での生活は厳しかったものの、恵まれた環境だったそうです。
『労働者を酷使しては上質な生糸はできない』
というのがブリューナの考えでした。
毎日入浴できたうえ、診療所や夜学校が設置されました。
誰かが物売りからかんざしをかえば、皆が欲しくなり、
借金が残った人もいましたが、
実力次第で給金が上がるのが励みだったようです。
彼女達が作業に勤しんだ繰糸所の眺めは圧巻だったことでしょう。
富岡製糸場の繰糸所は、トラス構造という中央に柱を用いず、
広い空間を保てる西洋の建築技術が導入された結果、
時代が変わり新しく大型機材を入れる際も建て替えず、
受け継がれてきました。
生糸を繰るためには繭を熱湯で煮る必要があり、
場内は熱気でもうもうと煙っていたのかも知れません。
そのような決して楽ではない作業に勤しむ女性たちを支えていたのは、
最新技術を駆使して働いているという誇りではないでしょうか。
富岡製糸場の見学とアクセス
富岡製糸場の一般公開は2005年から始まり、
2007年4月から見学は有料となりました。
日本初の官営模範製糸場として誕生し、
世界の絹産業を変えた群馬県富岡市の富岡製糸場で、
その偉業の歴史物語にふれることができます。
富岡製糸場の見学は、自由見学とは別に、
定時に40分程度の解説ガイドツアーが行われています。
所要時間40分予約不要で1日5回開催
利用料金200円で貸し出してもらえる音声ガイド機や、
自分のスマホを利用する音声ガイドもあります。
工女たちの秘話や、建物の構造に関する逸話などが、
ユーモアをまじえて語られる解説ガイドツアーをお薦めします。
20名以上の団体として予約しておくと、
専属の解説員についてもらうことができます。
アクセス 上信電鉄上州富岡駅から徒歩15分
営業期間 通年
営業時間 9:00~16:30(閉館17:00、20名以上、
バスで来館の場合は要予約)
休業日 水曜
祝日の場合は翌日、GW・夏休み期間は無休
料金 見学料=大人500円、高・大学生250円、小・中学生150円/
団体20名以上は大人400円、高・大学生200円、小・中学生100円
カード利用 利用不可
駐車場 なし
電話 0274-64-0005
あとがき
江戸末期から明治初期にかけて、
黒船や尊王攘夷、大政奉還や文明開化と、
それまで閉ざされていた日本の文化が、
いっぺんに解き放たれたように、
いろいろなものが入って来た時代
当時の人たちは、
その変化によくついて行けたことと思います。
そして200年後、
こんな世の中になっているとは思いもよらないことでしょうね!